黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました

被害者の生活を守れ

 被害者への生活支援は、早急に解決が図られるべき問題だ。生活というと、金銭の話かと思われるかもしれないが、そうではない。まさに、日々の生活を送れない、という話だ。それはなぜなのか。
 
 罪を犯した側は、身柄を拘束されると同時に毎日3食提供されて寝る場所もある。ところが、犯罪に巻き込まれた側は、事件が自宅で起きたりすればその日から住む場所にも困り、事情聴取やら行政上の手続きやら葬儀やら治療やらに追われて満足に食事の用意も手配もできず、従って温かい味噌汁一杯にも遠くから憧れるような毎日になってしまう。
 
 また、家族の中で事件に対応して動くべき人が育児や介護を担う立場だったりすれば、さらにひどいことになる。生活など、とても立ち行かない。ある被害者などは、親の介護を抱えながら、殺された夫の死を悲しむ間もなく「手続きの嵐」に巻き込まれ、思い余って「加害者の代わりに、私を刑務所に入れてほしい」と言ったというほどなのだ。
 
 自治体が、高齢者に宅配するようなお弁当を、せめて直後から半年とか、一定期間、被害者やその家族に提供するようなことはできないものだろうか…。こんなことを考えたのは、先週末の24日、交通事故被害者の家族が作る団体が主催のシンポジウムに、ある遺族のご夫妻の付添いとしてお邪魔したからだ。
 
 これまでも、ブログで紹介させていただいたことのあるこのご夫妻は、加害者の飲酒による正面衝突という交通犯罪で、ご主人のご両親が亡くなった上に、双子の弟妹が奇跡的に助かりながらも脳の高機能障害や身体の後遺障害に悩むという、大変につらい経験をしている。
 
 ご夫妻は、本来帰る先のご両親を突然に失った弟妹を、親代わりとして引き取って一緒に生活している。奥さんからすれば、長男の妻になって1年も経たないという時に事件に巻き込まれた。弟妹の看病や病院への送り迎えも引き受け、その後の複雑な刑事裁判を3つも対応しながら2人の子供の子育てもある関係で、事件のあった2008年2月からは心労の連続であり、奥さんは何度も倒れている。無理もないことだ。
 
 しかし、このご夫妻は前向きだ。亡くなったご両親が生きていたとしたら、生き残った双子の弟妹にしたであろうことは全部悔いのないようにやってあげたいとの決心から、刑事手続きにしても、飲酒運転撲滅の運動にしても、社会へのその他の啓発活動にしても、思いつく限りのことをしていると感じる。
 
 私は、そのひたむきさに感動して、横から勝手に応援しているようなところがある。
 
 この日、前夜には奥さんの方が救急に行くような体調で、カバン持ちの私としては非常に心配だったが、ご自分たちが経験されたのと同じような悩みを持つ被害者が待っているとの責任感からだろう、奥さんは体調の悪さを感じさせずに乗り切った。
 
 ご夫婦でこの日のシンポではパネルディスカッションのパネリストを務めていたが、事故に巻き込まれた直後は生活が全く成り立たず、ご主人は「当然ながら、出勤もできなかった」と言っていた。「幼い子供が餓死してしまう」と心配した奥さん側の親族が、家政婦を短期間手配するしかなかった…といった話もある。
 
 当たり前のことだが、被害者も毎日の生活がある。だから、警察の捜査が適正に進んで事件が解決すれば、それで良いとはならない。「被害者が見捨てられたままでの解決って何?」という気がする。
 
 犯罪被害者等基本法の第3条には、基本理念が書かれているが、そこには「被害を受けた時から再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援を途切れることなく受けることができるよう講ずること」とある。
 
 その理念を受けて、国や地方公共団体は、施策を作って実施する義務があるのだが…実際には、限られた自治体を除き、担当者をやっと決めただけで「うちには被害者なんていない」と決めつけて具体的には何もしていないとか、相談が来ても「何をしたらいいのか分からないから」と民間の「被害者支援センター」に丸投げするとか、そういうお寒い実情があると聞く。
 
 何のために基本法ができたのか、そういう自治体にはよく考えてもらいたい。
 
 地元には被害者がいないなんて、幻想だ。例えば、東京の繁華街で事件が起きたとしても、被害者が帰る先は東京ばかりとは限らない。新幹線通勤も可能な時代に、自宅は別の周辺の県にあるかもしれないし、事件に巻き込まれたことで職を失い、遠い故郷に戻るということもあるだろう。海外での事件に巻き込まれる例だってあるのだ。3・11でも多数の日本人が犠牲になっており、多くの被害関係者が日本のどこかの自治体に住んでいる。
 
 前述のご夫妻も、亡くなったご両親と重傷を負った双子の弟妹の住んでいた市と、既に独立していた兄夫婦であるご夫妻が住んでいた市は別だったため、既に2つの市にまたがって被害関係者が存在している。実は、もう1台別の車も同じ事件に巻き込まれており、その被害者も別の市に住んでいるので、1つの事件で3つの市に被害関係者がいることになる。
 
 地元に、被害者は存在しているのだ。
 
 さて、ご夫妻の話では、既に市役所に取りに行った書類がまた別の場所でも必要だということが後から分かり、同じ書類を入手するために何度も市役所へ足を運ぶ必要が出てきたり、さらに既に独立していたことがあだになり、実の親子でも非常に煩雑な手続きを踏まねば書類1枚が手に入らないようなこともあったという。
 
 また、別の窓口に行くたびに何度も同じことについて一から説明を求められ、誰もが温和な印象を持つであろうご主人が「そんなに時間がない、と怒鳴りたくなるような思いもした」とこの日のシンポジウムでも話していた。
 
 奥さんに以前聞いた話では、事件の複雑さや関係者の多さから、事件の説明には毎回短くても10分程度はかかるそうなのだが、ある市役所職員はほぼ聞き終わったところで、あっさりと「違いますね、あっちです」と軽くご夫妻をあしらい、「あっち」の職員に対して、特に引き継ぎをすることもなかったという。それが珍しいことではないのだというのだから、聞いているこちらまでヘナヘナと腰から力が抜けるような思いがする。
 
 これが、事件直後の食事もままならないような多忙さの中で直面するのと、普段の状態でそうなるのとでは、被害者が被るダメージには大きな差があるだろう。心の耐性が奪われている時に役所でこのような仕打ちを受けては、反発をする気力もなく、ただただ心が参っていくような気がする。住民票などの書類にしても、必要枚数が大体分かっているなら、最初にちょっと教えてあげることぐらい、職員には簡単なことなのではないのだろうか。
 
 こういった経験から、ご夫妻は「ちょっとの間でも、担当者を付けてほしかった」と言っていた。もちろん、冒頭に書いたような生活支援も欲しかったと言い、病院と行政の間にパイプラインを設け、行政に対して困っている被害者がいると「良い意味で通報してほしかった」とも言っていた。また、家族が交通事故で被害に遭ったことで、運転が怖くなり、移動のサポートも必要だったそうだ。
 
 この例のように、被害者は、地元市役所で様々な手続きをしなければならず、何度も不都合を感じる。しかし、逆を言えば、それだけ自治体には有用な「資源」が手元にあり、被害者のために何かできる可能性が広がっているということだ。
 
 先ほど、「限られた自治体」を除き自治体による被害者支援についてはお寒い実情があると書いたが、その、支援に熱心な「限られた自治体」の1つが東京都中野区であると、私は思っている。残念ながら、私は区民ではない。
 
 その中野区で、自治体の被害者対応の担当職員を対象にした研修会が7月9日に予定されており、奥さんが、重傷を負った妹さんとともに、自治体の支援について講演することになっている。また、中野区の被害者担当窓口の職員が、低予算でもここまで自治体ができる!という支援の実例を話す予定だ。
 
 担当職員に確認したところ、対象は、東京都内の…という縛りはあえて設けず、申込みさえしてくれれば他県からでも参加はできるそうだ。既に神奈川県・埼玉県のある自治体職員の参加が決まっており、東京都外からの参加が多くなってもいいや!という心意気だそうだ。「ぜひ地元自治体の被害者担当職員に受けてもらいたい」と考える被害者は、地元の市役所・区役所職員に伝えてみるといいかもしれない。
 
 参考のために、詳細を以下に記しておく。中野区の取り組みに感化されて、やる気のある職員がどの自治体にも存在するような、そんな環境が醸成されればうれしいことだ。

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平成24年度健康福祉部研修
「犯罪被害に遭うということ~自治体職員として犯罪被害に遭われた方の支援を考える~」
 被害者やご遺族の厳しい実情を知り、それぞれの職務でできる支援を考えてみましょう。
<1日目>日時:2012年7月9日(月)午後1時30分~4時、場所:中野区役所7階第8~10会議室、内容:犯罪被害当事者の講演、中野区における犯罪被害者支援について中野区支援窓口担当者から説明。
<2日目>日時:2012年7月23日(月)午後1時30分~3時30分、場所:中野区役所9階第12会議室、内容:自治体における犯罪被害者支援について中野区窓口担当者から講演、グループワーク。
【申込み】7月5日(木)までに、健康福祉部 福祉推進分野 権利擁護担当へメール(fukusisuisin@city.tokyo-nakano.lg.jp)、またはFAX(03-3228-8716)で申し込む。